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月子と森川の密会写真が送られてから一か月程、彩花は今までにない忙しい日々を過ごした。
メールが送られた日、社長に呼びだされた月子と森川がどうなったのか彩花にはわからない。
ただ、少なくともあの日を境に月子も森川も会社に来なくなったし、役職についている人間は誰も月子と森川の名前を口にしなくなった。
部署に残された人間は存在しないことになった月子と森川の仕事の穴埋めに右往左往することになった。
彩花も穴埋めのために必死になって働いた。今更ながら、月子と森川が本当に優秀な人間だったと言うことを思い知った。
でも、幸いなことに彩花は忙しさのおかげで月子や森川への想いを薄れさせることが出来たのだった。
忙しい中で、誰かが月子は離婚して森川と一緒にどこかへ行った、ということを言っていたような気がする。
そう言えば、美咲はあのメールが届いた日から会社に来ていない。寿退社まではまだ日があったはずだ。彩花は美咲に少しだけ同情をした。
忙しい日々も一か月が過ぎる頃には、かなり落ち着いて来た。
気付けば、毎月一日恒例の倉庫整理の日がやって来た。
彩花は倉庫のスペアキーを取り出しながら、月子と森川のことを思い出した。
月子は屋上で森川に「旦那も仕事も何もかも捨ててもいいから」と言っていた。結局、月子は自分で言った通り、旦那も仕事も何もかも捨てて森川を手に入れたのだ。
彩花は森川のことを考えるとまだ胸の奥に痛みを感じるが、果たして月子と同じ立場だとして自分は何もかも捨てて森川を選んだだろうかと考えた。
(私には出来ないな)
彩花はイスから立ちあがって倉庫へ向かった。
倉庫に入るのは、月子と森川が屋上で密会しているところを目撃した日以来だった。
さすがにあの密会現場を見てから、屋上には行かなくなってしまった。
倉庫に入って、奥にある机の上に書類を置こうとした彩花は、机に何かが置いてあることに気付いた。
(――マニキュア? 誰がこんなところに)
彩花はそのマニキュアを手に取ってハッとした。そのマニキュアはマニキュアの形をしたUSBメモリーだった。
「かわいいでしょ? それ」と言った月子の言葉を思い出す。このUSBメモリーは月子のものだ。
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