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「どうぞ」  森川は彩花に集め終わった書類を笑顔で手渡した。 「ありがとうございます」  彩花は書類を受け取りながら森川を見上げ、心の中で呟いた。 (――あなたが好き)  今まで何回、心の中でこの言葉を呟いただろう。彩花は森川のことが好きだった。  書類を派手に落としてしまったことでもわかるように、彩花はかなりドジな人間だ。何でも真面目に頑張るが、どこか抜けてしまうことがよくある。  上司から見ると決して優秀とは言えないが、森川はいつも彩花のことを気にかけてくれた。  よく声を掛けてくれたり、今みたいに彩花が困っていると手助けしてくれたりする。彩花はそんな森川のことをいつの間にか好きになっていた。  彩花は何度も森川に告白しようと思ったが、どうしても勇気が出ず、心の中でこっそりと告白を繰り返すだけだった。 「――どうしたの? 二人とも」  彩花が森川から書類の束を受け取っていると、今度は女性の声が聞こえてきた。彩花が振り返ると、彩花と森川の部署の部長の柳田(やなぎだ)月子(つきこ)が立っている。 「私が書類を落としてしまって、森川課長が拾うのを手伝ってくれたんです」  彩花が言うと、月子はニッコリと笑って森川の方を見上げた。 「森川君、さすが気が効くわね。でも、こんなところで永井さんと二人きりでいるなんて、ちょっとビックリしたわ。でも、戸部さんが見たら私よりもビックリしちゃうわね」 「確かに永井さんは良い部下ですけど、やましいことは何もないですよ」  森川が爽やかに答える。 「まあ、そうよね。2ヶ月後には結婚式だし。実はスピーチやるの、今から緊張してるのよ」  森川と月子が笑いながら会話しているのを聞いて、彩花は胸の奥に痛みを感じた。  彩花に冷たい美咲は、森川と婚約していて、2ヶ月後には結婚式を控えていた。  上司の月子は結婚式のスピーチを頼まれていて、彩花も仕方なく式に出席する予定だった。  森川と美咲が結婚すると初めて聞いた時、彩花は今まで感じたことがないほどのショックを覚えた。1ヶ月くらいは毎日泣いていたし、仕事中に涙がこぼれてくることもあった。  今ではかなり落ち着いたが、それでも森川と美咲の結婚の話題が出ると、胸の奥が痛くてどうしようもなくなってしまう。
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