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 彩花が胸の痛みを感じながら森川と月子の会話を見ていると、スマホの着信音が聞こえてきた。 「すみません、お客様から電話が……。じゃあ、永井さん、倉庫整理よろしくね」  森川はスマホで何か話しながら、どこかへ行ってしまった。  彩花は森川が小さくなって行くのを見つめていたが、ふと月子が自分のことをニコニコしながら見ていることに気付いてハッとした。 「すみません、ボーッとしてしまって」  彩花はまさか月子に自分の森川への想いがバレてないだろうとは思ったが、とっさにごまかすような言葉を言った。 「いいのよ」  月子はニコニコしていたが、一瞬真顔に戻った。「永井さん、森川君のこと、好きなんでしょ?」 「えっ?」  彩花は思わず月子から顔を逸らした。  彩花は自分でもこの反応はバレバレだろうと思い恐る恐る顔を上げると、月子はさっきと同じようにニコニコしていた。 「気にしなくても良いのよ。だって、森川君、良い男だものね」 「やっぱり、わかってしまいますか?」 「そうね。森川君や他の人はどうかわからないけど、ほら、私は一応、みんなの上司だし。何となくわかるの」 「……すみません」 「謝ることなんてないのに。でも、森川君も結婚するし、そろそろ別の人を探した方が良いわね。永井さんならすぐに良い人が見つかるわよ」 「そうですか?」 「そうよ! もっと自分に自信を持って」  月子は森川と同じように、いつも彩花のことを気にかけて励ましてくれる。  見た目や口調は穏やかで女性らしいが、誰にも負けないくらい仕事が出来て、社内の女性で唯一部長職をやっているのだ。  月子は彩花の憧れの女性だった。 「ありがとうございます」  彩花の返事に月子は頷くと、ジャケットのポケットからマニキュアのようなものを取りだして彩花に渡した。  マニキュアだと思ったものはUSBメモリーだった。 「かわいいでしょ? それ。お願いなんだけど倉庫整理が終わったら、この中に入っている会社の写真を全部プリントアウトしてもらってもいい? 広報で使うの」 「はい、やっておきます」 「パスワード入力してって出てくるから、『0129』って入力してね」  彩花はあれっ? と思った。1月29日は森川の誕生日だった。 「1月29日、旦那の誕生日なの。森川君と同じみたいね」  月子はそう言って彩花に軽く手を振ると、立ち去って行った。
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