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階段を登って屋上への扉を開けると、空は夕陽で赤く染まりかけていた。
吹いてくる風が頬に心地良い。
彩花は錆びれたフェンスに肘をついて、手元のスマホで夕日を撮影しながらぼんやりとしていた。
彩花はしばらくそのままでいたが、ふと誰かの足音が聞こえてきたので慌てて階段室の後ろに隠れた。
さすがに屋上には来ないだろうと思ったいたら、何やらカギを開ける音がする。
彩花は念のため、屋上の扉のカギを外側から掛けておいてよかったと思った。
「――相変わらず、良い眺めね」
階段室の後ろにいる彩花には見えないが、入ってきたのはどうやら上司の月子のようだ。
月子は部長だから屋上のスペアでないカギも自由に使えるのだろう。
「そうですね」
この声は森川の声だ。
屋上にやってきたのは月子と森川の二人のようだった。
どうして月子と森川が屋上に? と彩花は思った。
部長と課長で仕事の相談でもするのだろうか。
「結婚式の準備、大変?」
再び月子の声が聞こえた。
「大変と言えば大変ですけど、ほとんど美咲がやってくれてます」
「そう。2ヶ月もすると、あなたも他の女の旦那になってしまうのね、悲しいわ」
「そんなこと言わないでください。二人で決めたじゃないですか。俺は美咲と結婚して、月子さんは旦那さんと一緒にいるって。一番好きだけど、一緒にはならないって」
彩花は自分の胸の鼓動が激しくなるのを感じた。
「確かに決めたけど、やっぱりあなたが他の女の子と結婚してしまうのはイヤなの。私、旦那も仕事も何もかも捨ててもいいから……」
「月子さん……」
「やっぱり、あなたが好きなの。一緒にいたいの」
彩花は我慢できなくなり、身を潜めている階段室の影からそっと森川と月子がいるであろう方向を覗き込み、二人の影が重ねっているのを見て息を飲んだ。
彩花は思わず手元に持っていたスマホを強く握りしめた。
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