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月子と森川が屋上から出て行くまで、彩花は階段室の物陰でジッとしていた。
彩花には永遠に時間が続くようにも思われたが、数分経つと二人は名残惜しそうに屋上を後にした。
月子と森川が屋上を去った後も、彩花はしばらくその場から動けなかった。
まるで金縛りにあったように身体が動かなかったし、思考も停止していた。
身体と思考が動くようになった頃には、辺りは暗くなりかけていた。
そして、彩花はやっとさっきの出来事を思い出し始めた。
確か、屋上に森川と月子が来て話して行った。
いつも森川は月子のことを「柳田部長」と言っているのに、さっきは「月子さん」と言っていた。
月子は森川に「あなたが他の女の子と結婚してしまうのはイヤなの」と言って「旦那も仕事も何もかも捨ててもいいから」と言っていた。
そして、「あなたが好き」と……。
信じられないけど、月子は森川のことが好きで、森川も月子のことが好きだったんだ。
(――どうして?)
彩花は心の中で呟いた。
どうして、月子と森川は不倫なんてしているんだろう?
どうして、森川は既婚者の月子のことが好きなんだろう?
どうして、月子は美咲と結婚するはずの森川のことが好きなんだろう?
どうして、月子は同じ森川が好きな自分に優しくするんだろう?
美咲はあんなに冷たいのに。
彩花は森川と美咲が結婚することを聞いた時くらいのショックを受けていた。
でも、自分が憧れて尊敬している上司二人が不倫していたという事実を知ったのに「哀しい」というよりも、別の感情が自分の胸に湧いてきていることに気付いた。
彩花はこんなにショックを受けたのに、自分が「哀しい」と思っているよりも「裏切られた」と感じている気持ちの方が強いことに気付いた。
自分は月子と森川の二人に言いようのない怒りを感じているような気もした。
森川は美咲と結婚するはずなのに、月子のことが一番好きそうなことを言っていた。
自分は森川と美咲が結婚すると知って手を引こうと決めたのに、美咲のことを裏切っていることになるのではないだろうか?
月子だって、結婚しているのに旦那を裏切って森川に「あなたが好き」なんて言っている。
私には「別の人を探した方がいい」なんて言っていたのに……。
彩花は今まで自分が感じたことのない強い感情に、身体を震わせた。
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