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 辺りがすっかり暗くなった頃、彩花はやっと屋上を後にした。  ふと、ずっと握りしめていた手元のスマホを見ると、まだ写真の撮影モードになっている。  モードを終了しようとすると、自分が撮影した記憶のない写真が写っていることに気付いた。  彩花はその写真を見て息を飲んだ。  夕日をバックに抱き合っている男女の写真が何枚も写っている。忘れもしない、さっき見た森川と月子の姿だった。  多分、二人の姿に驚いて思わずスマホを握りしめた時に撮影ボタンを押してしまったのだろう、連写モードにしていたらしく何枚も写っている。  知っている人であれば、写真に写っているのが森川と月子だとすぐにわかる写真だ。  彩花は顔を歪ませると、反射的に写真を消去しようとしたが、すぐに手を止めた。  そして、自分の心をかすめた恐ろしいアイディアに寒気を覚えた。  月子と森川が抱き合っている写真を、会社中の人間にメールすれば……。  彩花は首を横に振った。  何を考えているんだろう。この写真を社内メールでばら撒いたって、誰も得する人間はいない。  月子と森川は会社を辞めることになるだろうし、月子は旦那と離婚、森川と美咲の結婚も破談になるだろう。  誰かが得するどころか、みんなが不幸になるだけだ。  でも……と、彩花は再び考えた。  月子と森川がこの写真のように不倫しているのは事実だし、森川が結婚しても二人は密会するような雰囲気だ。  既婚者が別の異性と付き合い続けるなんて、倫理的に間違っている。  月子の旦那はどうだろう? 他に好きな人がいる配偶者と何も知らずに一緒に居続けるなんて、むしろそっちの方がかわいそうだし不幸なのではないだろうか。  森川と月子の写真を社内にメールした方が、みんなはショックを受けるだろうが、全てが正しい方向へ向かうのではないだろうか。 (――それに、誰も私がこの写真を送ったなんて気付かないだろうし)  彩花はスマホを握りしめながら思った。
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