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1.
永井彩花は両腕いっぱいに書類を抱えながら、会社の廊下を足早に歩いていた。
今日は月初めの月曜日、月に一度の倉庫整理の日だ。
(やっぱり一人で倉庫の整理はキツイな……)
倉庫整理をやるのは同僚の戸部美咲のはずだった。
でも、美咲は倉庫整理の担当を彩花に変えてしまったのだ。
彩花も倉庫整理なんてやりたくなかったが、断り切れず、結局は引き受けてしまった。
どうして美咲は自分にだけ冷たいんだろう、と彩花はいつも思う。
美咲は会社の重役の娘だが、なぜか彩花にだけ冷たく、時には意地悪なことまでしてくる。
この倉庫整理の担当を彩花に変えたのも良い例だ。
(私の方が美咲に意地悪をしたいくらいなのに……)
彩花は考え事をしながら歩いているうちに気が緩んでしまい、手に抱えていた書類を廊下にバラバラと落としてしまった。
彩花は慌てて書類を拾い集めようと身体を屈めた。
「大丈夫?」
彩花が散らばった書類を集めていると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、彩花の部署の課長である森川博人が立っていた。
「すみません、書類落としてしまって……。でも、大丈夫です」
彩花は森川から目を逸らして俯いた。
恥ずかしいところを見られてしまった、と彩花は思った。こんなドジをやっている場面、よりによって課長に見られてしまうなんて……。
「俺も手伝うよ」
森川は彩花と一緒に床に散らばった書類を拾い始めた。
彩花に比べて森川は手際がよく、書類のほとんどをあっという間に集めてしまった。
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