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やがて、車は貴族街の中の屋敷に到着した。
門前で降りて、差し伸べられた紅泉の手に片手を置き、静かに一歩ずつ歩きだした。
中は賑やかだったが、嫌な感じはしない。紅泉が前庭に進み出ると、その場にいた人達は皆紅泉を見て表情を明るくし、近づいてきた。
「これは紅泉殿! お久しぶりでございますな」
「お忙しいと聞いています。本当に、久しいですな」
紅泉よりも明らかに年上っぽいが、話し方を考えると立場は逆転しているっぽい。面倒な世界だな。
そんな人達が、紅泉に手を引かれてただニコニコしているだけの私を見る。そして目を丸くし、何やら声もなく口をパクパクさせていた。
「もしや、こちらは…」
わななきながら何かを言いかける。それよりも前に、静かな足音が近づいてきた。
「ようこそいらっしゃいました、龍姫様。このようなむさくるしい宴にお越し下さり、嬉しい限りです」
藍法さんが相変わらずの穏やかな笑みで出迎えてくれる。私は紅泉よりも少し前に出て、丁寧に礼をした。
「私の方こそ、突然の申し出を快くお受け下さり感謝いたします」
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