180人が本棚に入れています
本棚に追加
/353ページ
水底に沈む
翌日、私は悶々と葵離宮にいた。
大人しく待つと決めはしたけれど、穏やかではない。
傍ではずっと、李燕が心配そうにしていた。
夕方になって真っ先に戻ってきたのは、白縁だった。けれどその表情は浮かない。それだけで、事態が好転しなかったことが分かった。
「白縁…」
「悪い、春華。どうにも上手く話しが通らねぇよ」
本当に申し訳なさそうに謝る白縁に駆け寄って、私は首を横に振る。疲れた彼の様子だけで、どれだけ力を貸してくれたかは分かった。
「ごめん、私の我儘に付き合ってくれて。白縁は何も謝る事なんてないよ」
「だけどよ! …俺も、こんなやり口許せねぇ。だからこそ力を貸したかったのに、このざまじゃ」
俯いた白縁の悔しそうな表情に、私も頷いた。
そうしていると次には紅泉が戻ってきて、私達の浮かない顔を見て視線を逸らせる。あちらもまた、思わしくないのだろう。
「ダメか、白縁」
「あの娘の父親が同意してるし、支度金の用意まで出来てる。よほどの事がなけりゃ、ひっくり返すのは難しい。これで娘の父親が前言撤回してくれりゃ、まだ何とか間に入ってやりようもあるんだけどよ」
「やりよう、あるの?」
最初のコメントを投稿しよう!