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「面倒だがな。家名に傷がつくし、金銭的にも大変な事だ」
「どういう事なの?」
家の名前に傷がつくのは、まぁ分かる。けれど、金銭的にって…。
「一度結んだ婚姻の誓いを一方的に蹴るとなると、用意された支度金の倍を慰謝料として支払うのが習わしだ」
「あいつ、えらい額用意してる。中位の貴族じゃ、家が傾いちまう」
「そんな!」
そんな卑怯な手を使うなんて。
一度は消えた炎がもう一度湧きあがるみたいで、私は拳を握った。
「すまない、春華。私の方でも過去にその男が何かしらの罪を犯していないか、税の記録などを調べてみたのだが、見つけられなかった」
「あいつ、あこぎだけど罪に問えるような事はしちゃいないんだよ」
「何かしてれば、止められたの?」
「聴取の為に呼ぶ事ができる。それに、奴自身に傷をつける事ができる。軽微でも罪を犯したとなれば、破談の理由としては十分だ。少なくとも、支度金だけ返せばそれで済ませられる」
けれど、それもできないんだ…。
震えそうになりながらどうにか落ち着こうとしている。その時、廊下を走る二人分の足音が聞こえた。
「春華様!」
「玉蘭ちゃん、艶瓢ちゃん!」
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