水底に沈む

2/12
180人が本棚に入れています
本棚に追加
/353ページ
「面倒だがな。家名に傷がつくし、金銭的にも大変な事だ」 「どういう事なの?」  家の名前に傷がつくのは、まぁ分かる。けれど、金銭的にって…。 「一度結んだ婚姻の誓いを一方的に蹴るとなると、用意された支度金の倍を慰謝料として支払うのが習わしだ」 「あいつ、えらい額用意してる。中位の貴族じゃ、家が傾いちまう」 「そんな!」  そんな卑怯な手を使うなんて。  一度は消えた炎がもう一度湧きあがるみたいで、私は拳を握った。 「すまない、春華。私の方でも過去にその男が何かしらの罪を犯していないか、税の記録などを調べてみたのだが、見つけられなかった」 「あいつ、あこぎだけど罪に問えるような事はしちゃいないんだよ」 「何かしてれば、止められたの?」 「聴取の為に呼ぶ事ができる。それに、奴自身に傷をつける事ができる。軽微でも罪を犯したとなれば、破談の理由としては十分だ。少なくとも、支度金だけ返せばそれで済ませられる」  けれど、それもできないんだ…。  震えそうになりながらどうにか落ち着こうとしている。その時、廊下を走る二人分の足音が聞こえた。 「春華様!」 「玉蘭ちゃん、艶瓢ちゃん!」     
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!