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駆け込んできた二人の顔色は蒼白だった。私の所まできて、そのままズルズルとへたり込んでしまう。玉蘭ちゃんは目にたっぷりと涙を溜めていた。
「どうしたの?」
「桜嘉が消えてしまいました!」
「え?」
言われている意味がよく飲みこめなくて、私は間抜けにも問い返してしまう。傍では紅泉と白縁が、とても険しい顔をしていた。
「どういうことだ?」
「分かりません! 先程、桜嘉の父が私の家に駆けこんできて、桜嘉が消えたと。机の上にこれだけがあったと」
艶瓢ちゃんが懐から、丁寧に折られた紙を一枚出した。その紙には震えた文字でたった一言『ごめんなさい』とだけ書かれてあった。
「どうしましょう、春華様。桜嘉はどこに行ったのでしょう」
玉蘭ちゃんがパニックになりながら言うのを、私は少し遠くに聞いている。不安に押しつぶされそうだ。心配で居ても立っても居られない。
「白縁、お前の情報網を使えるか?」
「付け焼刃だぜ? 今ならまだ店の奴等に聞いて回って行方探せるが、そもそも街に向かってなきゃ分からねぇ」
「それでもいい。少なくとも街に降りた可能性を消せるだけで探す範囲を狭められる。グズグズしていては、最悪な事態になりかねない」
「最悪?」
問い返す私に向けられる紅泉の目は、酷く焦って険しい。
「いなくなって、どのくらい経っているか分かるか?」
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