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強張ったまま頷く紅泉に、紫廉はふわりと笑う。そして、卓の上に置いた手紙にそっと手をかざした。
少し、不思議な光景だった。紫色の光が手紙を包んでいく。手紙を包んだ光は次に、紫廉の額の辺りへと流れていくのだ。
「悲しみ、後悔、苦しみ、拒絶。絶望の感情が渦を巻いているようです」
瞳を閉じて、それでも苦しそうに紫廉は言う。それでも、続けてくれる。徐々に顔色が悪くなるのが心配だったけれど、私には祈る事しかできない。
やがて、紫廉は僅かに表情を和らげる。
「それでも、迷いはある。友の顔と、楽しい時間。戻りたいと思う気持ちがあります」
「躊躇っているのか」
「逃げるにしても、消えるにしても躊躇いがあります。育ててくれた父親への申し訳なさも感じられます。これを書く時、少なくとも彼女の中に明確な未来は見えていない。おそらく、逃げ出す事は決めていてもその後どうするかは、考えていなかったのでしょう」
手紙から手を離した紫廉は、額に汗をかいて眉根を寄せている。
「玉蘭、艶瓢、二人は戻って桜嘉の寄りそうな場所や、頼りそうな家をとにかく探してくれ。親友にしか分からない場所もあるだろう」
「分かりました!」
「春華は私と来い」
「うん!」
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