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叫んだけれど、その声が届くよりも前に紅泉は水の中に消えていく。赤い色は川の中程に。そしてそこから、見えなくなった。
ガクッと膝から崩れた私は、情けなく動けないまま。悲鳴すら上げられない。震えが止まらない。声が出ない。胃がひっくり返りそうだ。
もしもこのまま、紅泉が戻ってこなかったら? もしも、溺れてしまっていたら?
紅龍は泳ぎが苦手だって言ってた。離宮の池は足がついたけれど、ここは? こんなに幅のある川が浅いなんてこと、あるはずがない。
怖くて、叫び出しそうで、私は自分を抱いた。最悪を考えないようにしたけれど、難しい。
ただひたすらに願って、願って願って願って、ただそれだけしか出来ないちんけな自分を呪っていた。
その時だ、すぐ傍の岸からザブッと音がした。弾かれたように顔を上げた私の足は、踏み出す事ができた。転げるように土手を降りて、平らな砂利まで走っていくと、そこにはずぶ濡れの紅泉が桜嘉ちゃんを抱えていた。
「手伝え!」
頷いて、私は桜嘉ちゃんの脇に腕を入れて必死に岸へとあげる。紅泉も下から押し上げてくれて、ようやく平らな岸へと引きずるように上げる事ができた。
仰向けにした桜嘉ちゃんの唇は真っ青で、胸の上下がない。息をしていないのがすぐに分かった。
「すぐに黒耀を…」
「そんな時間の余裕ない!」
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