水底に沈む

10/12
前へ
/353ページ
次へ
 怖かったけれど、私がこれまで勉強してきた事はなんだ。初歩を思い出せ。パニクってる暇なんてない! 「紅泉、体を温められる物持ってきて! 後、誰かに頼んで黒耀連れてきて!」  顔を横に向けて口の中に指を突っ込み、中の水を出してから、私はすぐに心臓マッサージを開始した。すぐにでも呼吸が戻ればいい。できるだけ早く!  願うようにそうしていると、コポッという少しくぐもった音がして、横に向けていた口から水が吐きだされるのが分かった。それを急いで指でかきだして口元に耳を持っていくと、ほんの僅かでも「ヒュッ」という息の通る音がした。  着ていた上着を彼女に掛けると、紅泉が毛布を数枚差し出してくれる。近くの民家から借りたのだそうだ。それで桜嘉ちゃんを包んでいるとようやく、バタバタと黒耀が近づいてきた。 「春華ちゃん! 紅泉!」 「黒耀こっち!」  土手を急いで降りてきたその背後から、艶瓢ちゃん達と氏絢さん、そして李燕までがついてきていた。 「川に飛び込んで、今蘇生してたの。微かだけど、自発呼吸できてる。でも、まだ意識が戻らない」 「分かった、後は僕が引き継ぐから」  黒耀は易々と桜嘉ちゃんを抱え上げる。その後を、李燕が追っていった。 「龍姫様、この度はなんてお礼を言っていいか…」     
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加