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とてもくたびれた様子で、氏絢さんが頭を下げる。その手が震えていた。
「私は殆ど何もしていません。川から桜嘉ちゃんを引き上げてくれたのは、紅泉です」
氏絢さんは私の傍に立つ紅泉を見て、深々と頭を下げた。
「紅泉殿、なんとお礼を言っていいか。あの子を救って下さり、感謝いたします」
「いや、礼には及ばない。この度の事、元を糺せば私も無関係ではない」
静かに言った紅泉は、その視線を私に向けた。
「礼をというなら、春華に。こいつは、桜嘉の為にと走り回っていた。私は、その思いに手を貸したに過ぎないからな」
氏絢さんが私へと向かう。そして、とても深く頭を下げた。
「あの、本当にお礼を言われるような立場ではありません。元々、私が悪いんです。それよりも、桜嘉ちゃんの傍にいてあげてください。目が覚めた時に氏絢さん達がいれば、桜嘉ちゃんも安心するはずです」
言うと、氏絢さんは顔を上げ、一つ頷いてくれた。そして、艶瓢ちゃんと玉蘭ちゃんを連れて黒耀の診療所へと向かっていったのだった。
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