誓いの言葉

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 紅泉は未だに眠っている。  体調の変化はないけれど、とにかく目が覚めない。  私の日課は、午前中は戸部に出向いて書類の清書などを手伝い、午後は紅泉の部屋に顔を出す事だった。  時々、葵離宮に艶瓢ちゃん達が訪ねてきてくれて、話しをすることもいい気分転換になっていた。 「春華様、寝ていますか? 食べていますか?」  怖い顔で艶瓢ちゃんが私に詰め寄るのに、私は苦笑して「うん」と嘘をつく。  実はあまり、眠れていない。紅泉が生きているのはちゃんとわかっている。けれど、目が覚めないんじゃないかという気持ちが強くて、夢見がよくない。夜中に何度も目が覚めて、自分に「大丈夫」と言い聞かせて、また眠るを繰り返している。  食事も、食べられるだけは食べるけれど、どうにも喉を通っていかない。自然と食が細くなってしまって、皆に心配されて、それで無理に詰め込むけれど、それでも量が減ったまま。  こんな状態で忙しく動き回るものだから、皆に心配させてしまう。でも、動いている方が変に考えないからと押し切って、働かせてもらっている。 「こんなにやつれて、嘘はいけませんわ春華様。このままでは紅泉様が目覚めた時、誰か分からなくなりますわよ」 「うっ、それは嫌かも…」  少しきつめに桜嘉ちゃんが言う。彼女もここへはきずらいだろうに、私を心配してこうして訪ねてきてくれる。  心配すると、「今は私よりも貴方の方が心配です」と怒られてしまった。 「本日のお茶うけは、桜嘉が選んだ物ですわよ、春華様」  お日様みたいにニコニコと玉蘭ちゃんがお勧めしてくれる。目の前には栗を使った美味しそうなお菓子がある。それを一口運ぶと、控え目な甘さが口の中に広がった。 「美味しい」 「それはよかった。では、その内一緒にお出かけになりませんか? 市中はすっかりお祭りのようですのよ。賑やかな所に出れば、気持ちも多少浮上しますわ」  ニッコリ笑う桜嘉ちゃんに、私は頷いた。  街は現在お祭りのような状態だ。  貴族の失脚などで人々が不安に思わないよう、白縁が率先して新たな龍王と、私の結婚の話を広めたのだ。龍姫が龍王を選んだと知り、街はそれは賑やかだと言う。
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