【紅泉伝】紅泉視点ストーリー

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「騒がしいものだ。黒耀など入り浸りだからな」 「そんな事を言って。皆さんの事、大事に思っているのに」  多少咎めるように春に言われる。私はそれに苦笑するしかない。どうにも天邪鬼で、素直には物を言わぬ癖がある。それは認めよう。 「何より、龍姫が賑やかで面白い」  言うと途端に、あの娘の顔が浮かぶ。腕を組んで考え込む仕草、口を大きく怒る表情、驚いて目を丸くする様。何より、楽しそうに笑う顔が浮かぶ。 「…兄上は、龍姫様の事が好きなのですね」  私の顔をジッと見ていた春から出た言葉に、私は驚いた。そして、その言葉を何度も己の中で反芻して、納得した。  確かに私は、あの娘を好ましく思っている。取り澄ました娘にも、外見ばかりで気位の高い女にも興味はない。私に怯え、後をついてくるような娘もいらない。  それに比べてあの娘は、平気で私に意見をする。素直な娘で、感情を隠さない。意見も隠したりはしない。何より努力家だ。決して驕らない。多少、卑屈ではあるのかもしれないが。いや、自信がないのだろう。 「そうだな。少なくとも、龍王選定に乗ってやろうと思うくらいには、興味があるな」  私は素直に認めて、茶を飲みこんだ。     
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