【紅泉伝】紅泉視点ストーリー

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【諦めきれない】 *24話「繋いだ未来」より  春華に担がれるように外に出た時にはもう、多くの感覚はなく、体に力は入らなかった。  それでも、倒れそうな春華を抱きとめた。途端に、力が抜けたが。  龍穴から力が抜けていく。消えていきそうな意識の中で、私は何を言ってやれるのかを考えていた。  いや、考えなど纏まらない。ずっと、気持ちと心が一致していない。  彼女を思うなら、言ったとおり忘れてくれたほうがいい。心から幸せを願っているのは本当だ。その為には、私の影が邪魔になるだろうと。  けれど心は綺麗ではない。私は春華を手放したくない。忘れてなど欲しくない。未来を縛りつけてでも、誰かに渡すなどしたくない。大切なんだ、本当に。  これを言葉にするのは、躊躇われる。きっと春華を戸惑わせる。この場でもまだ気丈であろうとする娘の心意気を、挫くことになる。 「待ってて、紅泉。私、もう一度過去に戻るから」  その言葉に、私は怖くなった。  今、立て続けに龍玉の力を使った春華はボロボロの状態だ。既に立っているのも辛い状況で、更に力を使えばどうなるか。  きっと命を削る。そんな事を望みはしない。     
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