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翌日は謀られたように資料整理の仕事は休み。私は朝からわりと暇をしていた。
そうなると時間の潰しようがない。考えればここしばらく忙しかった。体は忙しくなくても、あれこれ考えていたから。
ふと、白い布と裁縫箱が目に入る。白い布は丁度ハンカチが作れる程度。そこで私は思いたって、それを手に取った。
昼が過ぎてしばらく。私は作っていた物を作り終えて満足していた。
そこに、李燕が大きな箱を抱えて入ってきた。
「どうしたのよ、李燕。それ何?」
「紅泉様からの贈り物ですわ」
「紅泉から?」
私は驚いて、箱が置かれた机の傍に来た。李燕がそれを開ける。するとそこには、綺麗な着物が一揃い入っていた。
白地に薄桃の花が織り込まれた、前合わせの着物。
縁は鮮やかな赤だ。下のスカートみたいな履物は綺麗な桃色。帯は白に、やはり縁取りは赤。そしてその上に羽織る丈の長い羽織は、薄桃や鮮やかな緑、黄色などの色とりどりの美しいものだった。
「こんな綺麗なの…」
「紅泉様が服を贈るなんて、珍しい事ですわ」
李燕が納められた服を手に取って、嬉しそうに言う。
「紅泉様は身に着ける物に気を使いますが、それを他人に押し付けたりはいたしませんわ。まぁ、身だしなみには煩いですけれど」
「確かに、好みを押し付ける事はないかな」
服装の乱れや姿勢、立ち居振る舞いに関しては比較的厳しい。
けれどどんな色の服を着ていても、どんな形の服を着ていてもTPOに反していなければ煩く言わない。
李燕もそれには頷いてくれた。
「こうして衣服を贈るという事は、春華様に好みの姿をして貰いたいという思いの裏返しですわね」
そしてこのタイミングで贈るって事は、これを着て今夜来いということだろう。
私は少し緊張もしていた。けれど、拒んだりする気持ちもなかった。
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