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「紅泉のバカ。いつまでも顔上げられないじゃない」
「素直に上げて、泣き顔を見せてみてはどうだ?」
「嫌」
「強情だな。泣いている事実は知れているのだから、隠す事でもないだろう」
「不細工だもん」
「今更か?」
「ひど!」
さすがにカッとなって顔を上げると、紅泉がとても甘い優しい目をして見下ろしていた。
こいつ、謀りやがったな!
「まったく、手間のかかる奴だ」
そう言いながら大きな手で目頭を拭い、頬に触れてくる。
こうなったら、もう隠す事もできない。
「意地悪…」
「こうでもしないと、顔を上げないだろうからな」
「あげたくなかったの!」
もう、本当に…。
「弱い部分があっても、いいだろう? 誰に見せられなくても、私くらいには見せろ。溜め込めば気持ちが歪む。それにお前が望むなら、見なかった事にしておくさ。勿論、口は堅い」
こんな風に言われて、私は恥ずかしかった。
でも、彼の言葉はそのまま伝わって、私はただ頷くしかない。
苦しいような気持ちが溜まっていたのは事実で、吐きだし方が分からなかった。
元の世界なら、カラオケとかで吹っ飛ばしたり、友達と騒いだりして解消していたのに、ここにはそんな方法ない。
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