向けられる悪意

2/14
180人が本棚に入れています
本棚に追加
/353ページ
 探しに来た竹簡を手渡すと、黒翠さんは嬉しそうにふわりと笑って立ち上がり、フラフラしながら出て行く。本当に大丈夫だろうか…。  私の資料整理は現在税の徴収履歴に移り変わった。  こっちも物凄い数だ。  一つの棚に各地域の一年分の徴収履歴を纏めて入れる。表には勿論「○○年○○地区税徴収記録」と書いてノリで貼って棚に納めていく。棚一列で十年だ。  今日もせっせとその作業にいそしんでいると、不意に聞きなれない方向から扉の開く音がした。  この資料室には扉が二つあって、窓に向かい棚を背にして机に座っている私の左側が、紅泉達の執務室。そして右手後方にも扉がある。今までその扉が開いた事はない。  私は驚いて振り向いた。そこには五〇代くらいの男の人が立っていた。  灰色の短い髪を撫でつけた、酷く気難しい赤い瞳の男の人は、私を見とがめると眉間に深い皺を寄せて、不愉快そうな顔でズンズン近づいてくる。 「女がこんな場所で何をしている」 「え? あの、資料の整理を…」  私は思わず立ち上がって、机を背にした。とても怖い顔で近づいてくるし、言葉も威圧的だ。  でも逃げるのもおかしな話で、私は向き合ったまま動けなくなる。  男の人は私に手を掴んで強引に引っ張る。とても強い力で腕が抜けそうで、私は思わず悲鳴を上げた。 「何するんですか!」     
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!