お礼

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お礼

 その日の夜、私は葵離宮のリビングで本を読んでいた。  夜もけっこう更けてきたけれど、紅泉を待っていたのだ。  理由は勿論、日中に借りた簪を返して、お礼を言う為。  それにしても遅い。既に十一時になろうとしている。  持ち込んだ本も一冊読み終わってしまった。  この世界の恋愛小説は、けっこう泥沼だ。  どれもが貴族のお家騒動に絡めたり、本妻とお妾との昼ドラな展開になっている。  正直ちょっと胃もたれしそう。  でも中には、純粋な恋愛小説もあったりする。  今手にしているのは、わりと純粋で王道な恋愛小説だ。  愛情深いお妃様が、愛した王様を支えるようなお話。  ちょっと恥ずかしかったりもするが、嫌いじゃない。  そうこうしていると、突然扉が開いた。そして待っていた人が、驚いた顔で私を見た。 「春華?」 「おかえり、紅泉。いつもこんなに遅いの?」  本を閉じて歩いていくと、やっぱり険しい顔をされた。怒られる前だろう。 「お前は少し危機感を持て。何時だと思っている。こんな時間まで、しかもそのような薄着で男が出入りする場所にいるな」  うん、予想通りだ。     
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