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定めた想い
紅春くんの屋敷は、意外とお茶屋さんから遠くない。歩いて十分ってところだ。
到着して、私はすぐに応接用の部屋に通された。どこか落ち着く、温かい感じのする室内と家具。私はそこにある卓に案内され、紅春くんがお茶を淹れてくれる。
「どうぞ」
「有難う」
お礼を言って飲みこむと、口に馴染んだ味がした。紅泉と一緒のお茶の時間、彼が好んで使う茶葉だと思う。
紅春くんはとってもニコニコしている。物凄く嬉しそうだ。
「こうして、春華様とお話ができるなんて、思ってもみなかったです。前回はご挨拶だけして下がってしまいましたので」
「そういえば、そうだね」
交わしたのはほんの二言三言。それを思い出して、同時のその時の事を思い出して、更についでに余計な事も思い出して、私は今更ながら焦った。
ここは紅春くんの屋敷であると同時に、紅泉の家でもあるんだ。
こんな事が紅泉の耳に入ったら。いや、入らない方がおかしいけれど、そうなったらどんな顔をされる? 呆れられる? それとも、もう付き合ってられないと無視される?
不意に、小さな手が私の手に重ねられた。慌てて顔を上げると、紅春くんがとても心配そうな顔で私を見ていた。
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