【紅泉伝】紅泉視点ストーリー

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【紅泉伝】紅泉視点ストーリー

【儀式前夜】 *披露の儀前日のお話です。  久しぶりに戻った屋敷は、随分と静かに感じられた。  庭の池に映る月を眺めながら、どこか落ち着かない私がいる。実に、らしくなかった。  思えば最近は騒々しいばかりだった。幼馴染の三人だけでも何かと賑やかだというのに、緑倫と白縁もいる。何よりあの娘がいると、その場が騒々しいくらいだ。  だがそれが、心地よく感じられる。どちらかと言えば静かな時間を好む私が、随分と毒されたようだ。そう思いながら、口元に笑みが自然と浮かぶのだ。 「兄上、お茶をお持ちしました」 「あぁ、春か」  弟の紅春が茶を乗せた盆を机に置く。私はそちらへと歩み寄り、久しぶりに弟と二人の茶を楽しむ事にした。 「なんだか、楽しそうですね兄上」 「ん?」  茶を飲んでいる私の顔を見て、穏やかに春は笑う。  私は自分がどんな顔をしているか分からないまま、視線を上げた。 「とても嬉しそうな顔をしております。楽しそうな」 「そうか?」 「はい」  楽しそうに笑う春を見ると、私も自然と笑みが浮かぶ。そして、この心にある落ち着かない気持ちを、素直に受け入れた。 「離宮での生活は、どのようなものなのですか?」     
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