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お宅訪問
お茶会から数日経った。日常生活は変わりなく。けれど、ほんの少しの変化はあった。
まず、離宮の雰囲気が柔らかく、丸くなった感じがする。女官さん達の表情も前より明るい感じがする。それは葵離宮でも同じで、緊張感が漂っていたのが少しだけ柔らかくなった。
既に二回目の開催を望む声まであるのである。早くない?
そんな時に、思いがけないお誘いがかかった。
「外食?」
資料整理から戻ってきて夕方、李燕から話を聞いた私は問い返した。
「えぇ。紅泉様から、明日の夕刻に外で食事をとお話がありました。いかがいたしましょうか?」
「そんな話、まったくしていなかったのに」
ほんの数時間前まで一緒の職場にいたし、一緒にお昼も食べたのに、彼はまったくそんな素振り見せなかった。直接誘ってくれればよかったのに。
けれど李燕は苦笑して、その意図を教えてくれた。
「正式なお誘い、というものですわ。本来貴族の家ではまずはそこの女官や使用人に話しを持ち込み、その者から当事者に伝えられ、誘いを受けるのが通常ですの」
「面倒だね。直接話せる距離にいるのに」
回りくどいような気がする。それにこんな誘い方、今まで紅泉はしなかったのに。何か意味があるのだろうか。
「姫として見る、という事かもしれませんわね」
「どういうこと?」
「少し本気で、春華様との関係を考えているのかもしれませんわ」
「え?」
静かだった気持ちが、僅かに波立つ。心臓が一つ跳ねた気がした。
「どういたしましょうか?」
「あぁ、うん。受ける」
妙な緊張をしながら、私は李燕に誘いを受ける返事をした。
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