暴君

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ここは現人神が治める聖なる地、オーヴェ帝国。 広大で肥沃な土地を有し、古来から信仰心の厚い国柄ながらも、技術進歩がめまぐるしい先進国でもあるという稀有な特徴を合わせ持っている。 国防の面では四方と中央にある五つの城と五つの教会を備えていて、市民には聖地として崇められ、それぞれの城下町はいつでも活気で満ち溢れていた。 しかし、一方では数多くの少数民族を踏みにじって拡大・発展した歴史があり、常にどこかしらで争いの火種を燻らせているので、表面的な平穏は敬虔なる信者として組織された巨大な軍隊により力づくで維持されているのだった。 皮肉な事に、絶対なる一神教を謳うオーヴェ帝国の内実は、近隣諸国で最も多岐に亘る信仰が潜在してると言えた。      * * * 「カナン神官」 忙しさと心痛で苛々していたその神官は、愛想を取り繕わないまま振り返った。 「相変わらず、お忙しそうですね」 定型の挨拶だったが、カナンは苦笑して肩の力を抜いた。 「久しぶりだな、サイラス」 学生時代の友人の息子であるサイラスは、神官として世俗の関係を絶った今でも交流を続けている、数少ない知人だ。
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