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ふっと、左手にぬくもりを感じた。 私の指と指の間に、誰かの指が入り込んできて、私の手をそっと優しく握った。 それは、余りにも優しい魔法であった。 「ぐはっ…!」 気が付くと眼前は暗くなっていた。いや、人影だ。目の前に人が立っていたのだ。遠くには丸焼きにしたはずの男が、地面にうずくまっていた。 「何で―」 そう呟いた瞬間、目の前の人影がこちらを向いた。 ミルクベージュの長い前髪が揺れる。どこまでも深い紫の双眼が、エーデを捉えた。 「お前…」 「…」 「拒否しないのは同意の合図と同じだと思う」 「は?」 こいつは、一体何を――と、一瞬考え、はっと思い当たった時には、恥ずかしさで顔が熱くなっていた。 「ばっ、違っ、睡眠誘発剤で意識とびっ、飛びそうだったん、だっ!!!」 「はぁ?なに焦ってんだよ。冗談だろ」 端正な顔がからかうような顔をしながら、こちらを覗き込む。か、顔が近い――耐え切れず顔をそらす。目の前の男子生徒―この大学の制服のマントを着けているから多分そうなのだろう―は、怪訝そうな顔を一瞬してから、先程勢いよく蹴飛ばした背後の男に目をやった。 「おい、大丈夫か」 「え?私?」 「お前に声掛けてないだろ、向こうだよ向こう」 カチン。何なんだこいつは。ピンチを助けてもらったとはいえ、腹が立つ。 「う…っ、がはっ…」 「大丈夫そうじゃねぇから大丈夫だな。おい!」 ミルクベージュ前下がりワンレンの男はマントを翻し、地面でうずくまる金髪の男に近寄る。 「よく聞け。もうこっちに危害を加えないと言うのであれば、お前の事を見逃してやる。まだやるっていうんなら、そうだな、瀕死の状態にまで追い込んでから外に出させてやる」 う、うわぁ。もしかしてこいつケンカしてるヤンキーなんじゃ。いや、もしかしてじゃない、そうだ、絶対そうに違いない。 「…ん?っていうかあんた、外に出る方法知ってるの!?」 「あぁ?知らねーよ。第一、この建物自体に制御の魔法がかかってて、モノ一つビクともしねーだろーが」 「ししし、知ってます!俺、解除できます!」 突然足元から怯えた声がしたので、目をやると、金髪の男が青く光る宝石を持っていた。
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