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そのミルクベージュの長い前髪から覗く双眼は、ある一点から目を離せずにいた。 晴天の中を舞う、色とりどりの花びら。遙か空高くまで舞っていっては、くるくると旋回しながら、ゆっくり地へと戻ってくる。フラワーシャワーというらしい。この一定空間の空気の循環を制御することで、半永久機関として花を舞わせ続けているのだろう。簡単な理論魔法―三次魔法だ。 花が舞う白いコンクリートの地に立つ人々は、その光景に歓声を上げながら、花を掴もうと天に向かって手を伸ばす。美しい光景に人々の顔がほころぶ。隣にいる者と笑い合う。生身の人間が同空間に集まって同じ感動を共有するという事は、この時代においては目新しいことであった。 人々の歓声が響くこの屋外空間で一点、静を纏う一点が存在した。雑踏の中を、エメラルドベージュの絹が舞う。それは、まるでスローモーションに見えるほどに見た者の目を奪う、美しい黄緑のストレートヘアであった。 雑踏の中に青年は彼女を見つける。天を仰ぐ人々の間を、前を向いてすり抜けていく彼女の姿は、ある意味異様であり、そして、色とりどりに舞う花びらに揺れるエメラルドベージュの絹は、美しかった。 「……………、っ!」 気が付くと青年は、コンクリートを蹴って駆け出していた。
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