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「続いては次のニュースです。インド連邦ルピー高、円安が激化しています。これにおける日本企業への影響は深刻であり、不況が続く日本企業がインド連邦の企業に買収されるケースが続出しており…――」 宙に映し出されたモニターの中で若い女性アナウンサーが何やら小難しい事を喋っている。どこかたどたどしいその口調から、そのアナウンサーの力量は見て取れる。モニターに目をやると、彼女は目鼻立ちの整った相当の東洋美人であった。なるほど、そういうことか。 「あーつーいー」 モニターから目を離し机に顔をうつ伏せる。エメラルドベージュの長髪が机の資料の上に、ばさっと広がった。 「ちょっとエーデ、資料にファンデーションつくわよ。」 「あ、やば」 エメラルドベージュの髪の女性―エーデルワイスが顔をあげると、そこには肌色のスタンプが押されていた。 「暑いなら髪結べばいいじゃない」 「んー」 「何その適当な返事」 「ん~、多分企画室にピンとか入ったポーチ置いてきちゃったんだよね。取りに行くのだるい……いや、学長室だったかも」 「何で学長室にポーチ置いてくるのよ、どういったシチュエーションになれば学長室でポーチ取り出す展開になるのよ」 「だって学長、女装コンテスト出たいっていうから」 「は!?」 ターコイズアッシュに鮮やかなライトターコイズのメッシュが入った、外ハネのヘアスタイルをした気の強そうな女生徒はそこで噴き出した。彼女が被っている黒色の麦わら帽子が揺れる。つばの緩いカーブに花の飾りが施されたその麦わら帽子のデザインから、彼女が相当なオシャレ好きであることが伺える。 「キキョウ、笑いすぎでしょ」 「いやだって、いや…ふっ、ふふ…あの強面の学長がそういうノリの人だって思ってなかったから」 キキョウの笑い声が空気に溶ける。机が置いてあるのは屋外で、目の前は多くの人で賑わっていた。 晴天の下、ある人は食べ物を持って左へ、ある人は空に舞う花を仰ぎ見ながら右へと、人があっちにこっちに流れていた。エーデとキキョウは同じ机に座って1メートル範囲内にいるとはいえ、少し声を張らないと掻き消されてしまう。それ程の盛況であった。
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