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机に突っ伏したままモゴモゴとエーデが喋り出す。
「でも、小さい頃読んだ文化書に書いてあった、魔歴以前にはあった”イベント”っていう文化は、私にはとても輝いて見えたんだ。だから…憧れ、っていうか…小さい頃の自分の夢を叶えてあげたい、っていうか…」
「はいはい」
また落ち込み始めたとばかりにキキョウはエーデの言い分を静止した。
「別にあんたの夢を否定した訳じゃないんだって。変な受け止め方するな。ふふっ、突っ伏しながら喋ったから、今度は紙に口紅ついてる」
「あ」
紙を見ながら、「またやってしまった」とエーデはまぬけな顔をした。勉強は人並み以上にできるのに、こういうところで学習能力がないのは、彼女の欠点でもあり、可愛さでもある。
「でもいいもんだよ。こうやってここから見る景色だけでも、文化祭に参加してる人たちが楽しんでくれて、笑顔になってるのがわかる。自分のしたことで人が笑顔になるっていうのは、あたしはやりがいを感じるわよ」
キキョウがエーデの方を向いて、目尻を上げてニッと笑う。
「うん」
「髪、」
「え?」
「髪、結べば。」
「あ、あぁ」
「いちいち突っ伏してる時に、髪がバサァってなるのもみっともないしさ。しばらくここ、本部空けといても問題ないでしょ。ポーチ探してきなさいよ」
「え、いいの?大丈夫かな」
「大丈夫、大丈夫。何かあったらオーニソ呼び出してソッコー来させるし。それに、」
「…何?」
「あんたが作ったこの”イベント”、あんた自身がちゃんと見て回って、実際に楽しんでくるのもいいんじゃない?参加者の視線を持つことも大切でしょ」
「…うん!」
彼女の優しさに、胸がじわっと熱くなった。
「ありがと!」
「はいはい、どーいたしまして」
エーデは感謝の言葉を告げて立ち上がると、左手を挙げて空中にモニターを表示させた。そこに表示されたパネルを操作し、何やら訳の分からないコードを打ち始めている。
「全く、ほんとに便利な能力よねぇ」
「ははは、いいだろういいだろう」
「何?ポーチの場所検索してるの?」
「うん」
「いいよねぇ、”高速検索”。テスト前とかレポート書く時役に立ちそう」
「立つんだなぁ、それが。………ん?」
「どうしたの」
キキョウがモニターを覗くと、そこにはここ、ジュスティ大学の構内図が表示されており、その一点が赤く点滅していた。
「…何で”倉庫棟”?」?
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