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「倉庫棟とか初めて来たかも」 目の前にそびえ立つ4階建てのプレハブ建築物に、なんとなく圧倒される。無駄に大きいこの大学のこの施設に圧倒されるのもそうだが、古びていて建物のあちこちが赤く錆び落ち、壁には蔦が張り巡っているその様が、どこかの怪談話で見た建物のようで、なんとなくエーデの心をびくつかせた。 倉庫棟の高さ3メートルはありそうな入り口から、中に顔だけを覗かせる。 「すいませーん、誰かいますかー?」 発した声はわずかに空間に反響して溶けて消えた。数秒待ってみたが、向こう側から音が反ってくることは無かった。 「…人の家に無断で入る訳じゃああるまいし」 何をしているんだ、私は、とセルフツッコミをしながらエーデは倉庫棟に足を踏み入れた。歩いていくと段々分かったが、外より幾分空気が籠っていて、暑い。 「けほっ」 空気が悪いな、とむせた。こんな空気も最悪で、おばけの出そうな薄気味悪い―いやおばけは科学的に解明された、あくまで空想上の存在であるのだから出る訳ないのだが―ところからさっさと出て、文化祭を見て回ろう。学長の女装でも見れば気が晴れるだろう。1時間後には楽器演奏のステージの進行をやらなければいけないから、それまでには帰ればいいだろう。………はぁ、こんなに怖いならオーニソ連れてくればよかった。 「さっさと帰ろ」 そう言ってエーデは先程と同じように利き手である左手で宙をタップし、先程表示したマップを今一度眼前に表示した。指で画面をピンチアウトして倉庫棟へとマップを拡大させた。 「あれ」 エーデは少しの違和感を覚えた。先程、本部でキキョウの横でマップを見た時は、倉庫棟の左端を赤い点が点滅していたような覚えがある。しかし、今目の前で拡大したマップでは倉庫棟の右端が点滅している。 私のポーチが動いているとでもいうのか。 血の気がさっと引く。 「やっぱりおばけ…」 脳裏に一瞬よぎった考えを振り払うように首を横に振る。 「いやいや、そんなわけないって。さっき本部で見た時もきっとこの位置だったんだって。何かの間違い間違い…」 その瞬間、ガゴンッ!と地を揺らすような大きな音が背後から聞こえた。見れば、20メートル後方、倉庫棟の扉が閉じられて、外からの明かりが遮断されていた。
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