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今日ばかりは自分の頭の回転の速さを恨んだ。もう少し自分が鈍い女であれば、この状況に絶望せずに済んだのかも知れない。
倉庫棟の中は、外の熱を密閉したかのような蒸し暑さであった。窓から入る陽が唯一の光源となっており、あたりはどこに何が置いてあるのかが、微かに影で判別できる程度であった。
一体どうしたものか…このままでは熱中症になって倒れるのも時間の問題だ。何せ、私は身体が強くはないのだから、こんなところに長居している訳にはいかない。
右腕の時計を見る。時刻は12時50分。楽器演奏のステージ進行業務は13時30分からだ。あと40分――それまでになんとかここから脱出しなくては。
その時、
――――ガタンッ!
「!?」
右の方の物置きの奥から何かが動く音がした。
「ほんとなんなの…勘弁してよ…」
エーデは半ば泣き声になりながら唇を噛みしめた。こんなところに居たくない。もしかしたら今、この空間で私は得体の知れない存在と一緒にいるのかも知れない。同じ空間に居たくない。とりあえず二階へ逃げよう。そうだ、もしかしたら上の階に行けばここから脱出できる方法があるかも知れない。
棚に掛かっているハンガーが一瞬人影に見えるほどに暗い中を歩きながら、二階へ通ずる階段を見つける。一段目に足を掛けて見上げると、どうやら二階は一階よりずっと光が入っているようだった。
はぁ、よかった。まずはこの恐怖感から解放される。そう思うと足はすくみながらも歩を速め、コンクリートの階段を駆け上がっていった。
「明るい…」
二階に入って、まるでもう外に出られたのかのような達成感に襲われた。もっとも、二階に上がっただけなのだから、まだ何もミッションコンプリート出来てはいないのだが。恐怖心からの解放というだけで、今の彼女には万々歳であった。
少し緊張がほぐれたからか、エーデはこの倉庫棟内の暑さを思い出しはじめた。なんだか頭が少しぼうっとしてきた。少し座って休みたい欲が湧いてくる。
「どこか…座れる場所……ふぐっ、んッ!?!」
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