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くたびれたジーンズ。膨らんだポケット。いつ崩れるかわからない、洞穴の入り口に立つ人々は。研磨前の石塊しか見ちゃいない。潰れた血豆覆うカサブタ。このカサブタのように、稚児の抱擁じみた優しさで。世界は砕けて輝くのにさ
空の助手席にかけている、シートベルトのオイル缶。足下に転がるその蓋を、拾うことすらできぬほど、この鳥は老いぼれて。クレヨンで塗り潰したような黒い煙を吐きながら。きっと楽園を探してる。赤ら顔のパイロット、赤ら顔のパイロット
だぼだぼレインコート着こなしたつもりで。ありもしないカイゼル髭つまみながら。オチを忘れて、ループ周期に入った流行りのメロディ口遊む。何か良いことでもあった?なんて。ディア・不特定多数の不幸話の次に、陳腐な台詞を吐かないで
虫歯だらけの螺旋階段、頼りはささくれ立った手すりだけ。壊れたインターホンにアイを囁く。「コーク漬けのホームズはおられるか」 ドア下から差し出された紙片、踏み潰して。チェーンのかけ忘れに泣き出しそうな彼に告げる。今宵も謎と
マントルを突き破って訪れた夏は、吸い込まれるように空へと消えていった。右に鳴り虫を、左に牛車を連れだって。残り香追って顔伏せた、向日葵は何を見るか。答えねど、答えねど。その秋されの眼差しは眩しげに。遅咲きの鳴り虫が震えん
買ったきり、栞も挟んじゃいない古書。焼けてベージュの背表紙に、彼の人を重ねん。手に取るべきか、見送るべきか。目を逸らせば、宵の口づけは迫りて。ああ、惑い、微睡めば。初めからこうであったかのように、糸は結ばれるというのに
極彩色のラッピング。負けじとくゆる白薔薇リボン。捕まえたと思えばモンシロチョウ。するりとほどけて高い空。置き手紙代わりに、花でもと。開いて覗く箱の中。待ち構えるは伽藍堂。『中身がなければないほどに、声は震えて届かない』
厚ぼったい唇、痛くならないように。イジワルする君の指は。ゾッとするほど、白く冷たくて、少しの熱で消えてしまいそうで、吐息を漏らすことすら憚られて。酸欠で白む視界、ぶつかる鼻頭。そこでやっと、熱っぽい君の顔、見れた
揺れる氷暖簾。主役の消えた移動屋台。半ばまで減ったシロップは吸いこまれそうな空の青。その青に魅入られて近づく影は少年で。日焼した肌、渇いているようだったから。遠ざかる前の太陽、歪な気泡に閉じこめた、クリスタルが溶けだした
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