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激しい戦闘が始まる前には奇妙なほど静かな時間があった。タツオも一瞬だが、懐かしい進駐官養成高校のことを思いだした。罰として走らされたグラウンド、大食堂に講堂、二段ベッドが左右においてある宿舎。ちらりと横目でサイコを見た。漆黒の軍服を着た少女の目に、自分と同じ感傷を見つけて、タツオははっと胸を刺された。兄・カザンが亡くなって鬼人のように戦うサイコも、まだ17歳の少女に過ぎない。その年で進駐官少尉となり、「須佐乃男」作戦による不妊を恐れて卵子の冷凍保存をしているのだ。いかに戦争がひとりひとりの人間の運命を歪(ゆが)めてしまうか。タツオの腹の底に冷気を立ちあげる氷の塊(かたまり)が生まれていた。この怒りをどうすればいい? 進駐官にならなくとも、全国の半数以上の高校生は、学校ではなく毎日軍需工場にかよい、勤労動員に駆りだされている。
逆島少佐が静かにいった。
「タツオ、時間だ」
「よし、みんな、いこう。速度が勝負だ。戦闘は敵陣深く潜ってからでいい。できる限りの速力で戦闘地帯を抜けて、敵陣深く潜入せよ」
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