29(承前)

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 予定の時間に丘のうえから、猛烈な銃撃が開始された。クニだけでなく、サイコも狙撃銃を自動小銃に持ち替えて、フルオートで5.56ミリ弾をばらまいている。テルがいった。 「なぜか友軍の銃声は音楽みたいに気分がいいよな。敵のは最悪だが」  タツオは背後に大人しく座りこんだ4足歩行の戦闘ロボットを見つめた。背中に立つのはタチバナの花を白く染め抜いた青い隊旗だ。あと30秒で敵陣目指して突撃だった。 「あーあ、ぼくらはなにやってるんかな。今どき、普通の高校生はクラブ活動やら男女交際やらで盛りあがってるんやろな」  ジャクヤが銀の瞳を光らせて、ススキの斜面を見つめていた。幼い頃から呪術の才能を見こまれ、天童家による選抜を耐え抜いてきた。多くの子どもたちのなかの数すくない生き残りだ。この危機に対しても、とくに恐怖や気後れなど感じないのかもしれない。タツオがいう。 「いつかこの戦争が終わったら、きっとジャクヤもまた学校にいけるさ」
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