天井裏にあったもの

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天井裏にあったもの

 あらっ?  長谷部美枝子は、ビーチグッズを収納している天袋を開いた。水中メガネやシュノーケル、浮輪やゴムボートなどが、三つのポリ袋に分けて詰め込んである。何しろ天袋を開けるのは一年ぶりだ。黴びたビニール臭が漂ってくる。  長かった梅雨が明け、朝から気温が鰻登りだ。世間的には、待ちに待った海の季節の到来ということになる。  洗濯を早めに終わらせた美枝子は、週末に行く海水浴の準備に手をつけたところだった。  ちゃんと乾かさなかったかな…  美枝子は、汚い物をつかむように、一番手前の袋を引きずり出した。その時、天袋の天板が少しずれているのに気づいたのだ。隙間から、真っ暗な天井裏がのぞいている。  やだ、ネズミかしら?  踏み台にしている丸椅子から下りると、いったん息を整える。  荷物だけ下ろして、後はパパに見てもらえばいいか…  美枝子は専業主婦だ。公務員の夫 “剛史”と、小学校五年生の一人娘“姫華”と三人で、一戸建て住宅に暮らしている。一戸建てといっても公務員の収入で買える物件は、高が知れている。長期ローンを組んで、三年前に郊外にある中古物件を購入した。  姫華はこの一年で、十センチ近く身長が伸びた。だから週末に行く海水浴で、去年の水着を着ることができない。そこで、児童館から帰ってきたら、新しい水着を一緒に買いに行くことになっていた。ついでに美枝子は、買い足さなければならないビーチグッズを確認するため、天袋を開けたのだ。  隙間から何か出てきたら嫌だな…。気持ち悪いから、天板は元に戻しておくか…  美枝子は、もう一度丸椅子に上がった。それから天袋をのぞき込むと、恐る恐る天板を上に持ち上げた。  天井裏に部屋の光が射し込み、目の前に四角いものが現れる。  あれっ?  もう少し高く、天板を押し上げてみた。そこにあったのは、二十センチ四方の木箱だ。  何が入っているのかしら?  俄然興味をそそられる。まさか夫が何かを隠しているとか…。あるいは、前の住人の忘れ物…。動かしてみると、片手で抱えられるほどの重さだ。美枝子は木箱を両手でつかむと、慎重に丸椅子から下りた。
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