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がこん、と天井に大きな音がする。恐らく、ヘリコプターが無理矢理列車に乗り付けたのだろう。
この列車は、元々が炭鉱用だったためか、勾配とウインチを使って、無人で運行されている。その為、途中で停止させることが出来ない。
がたがたがたがた、と天井からブーツの音が奏で出される。
やがて、後部から三人ほどの秘密警察のコートを着た人間がずかずかと入ってきた。
「おい、そこのふたり!」
案の定、私のたちの前で立ち止まり、威圧的な目線を放ってくる。
間違いない、こいつらは私を捕らえに来たのだ。
「老人、腕を見せろ!」
秘密警察の一人が、老人の腕を無理矢理引っ張る。
「痛っ! ぼ、暴力は止めて下され……」
老人は、眉をひそめながら抵抗をする。
だが、老人と鍛え上げられた秘密警察の人間とでは、根本的に腕力が違う。
やがて、秘密警察は老人の右腕を掴み上げると、勢いよく裾を引きちぎった。
老人の右腕に押された痣が、陽光に当たり、どす黒く浮かび上がる。
――拙い……!
「ふん、やはり脱走者か。おい、連行しろ」
老人を無理矢理立ち上がらせようと、秘密警察の人間が腕を引っ張り上げる。
この人も、やはり脱走者だったのか。
この人も、私と同じような屈辱的な日々を過ごしてきたのか。
この人も、脱走のため血肉を削る思いでここまで辿り着いたのか。
――くそっ……!
私は、とっさに右手を引き抜き、秘密警察の人間の眉間に銃口を向けていた。
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