2/2
前へ
/6ページ
次へ
 私が乗っている列車。それは、唯一、強制収容所と大陸に続く半島を繋ぐ、たったひとつの交通手段。  私は今、その列車に乗っている。  行く先は――半島。私は、あの要塞島からの脱獄に成功したのだ。  あともう少し。この列車が半島に着けば、私は自由の身となる。無論、追われる身である事には違いないが、都市にはそのような反政府組織が山のように存在する。その中には、私のような無実の罪で拘留され、脱獄してきた人たちも大勢いるという。 「そこへ身を寄せれば……後のことは、何とでもなるだろう」  私はポケットに手を入れた。中には、数枚の金貨と銀貨。始末をすれば、一ヶ月は何とか食っていける金額だ。心許ないが――これが、私の全財産。  ちゃりん、と軽く投げ上げると、すくうように握りしめた。  これを手に入れるのにも、相当の苦労――いや、拷問があった。  強制収容所に収容されている人間が現金を手に入れる方法は、ふたつ。  ひとつは、外の家族などから仕送られてくるもの――例えば煙草など――を、所員に売り渡すことだ。当然、大半が手元に届く前に没収されるか、届いてもほんの僅かな量に目減りしている。それらを、はした金で所員に渡して手に入れる。  もうひとつは、女である私にしか出来ない方法――即ち、身体を売るということだ。犯され嬲られ……中には一晩中、続く時もある。それでも、時々は書院の気分が良い時に、はした金を少しだけ貰える程度である。  それをかき集めて、見つからないように隠して、脱獄のための賄賂にするのだ。  強制収容所は、まさに地獄であった。  だが、風の便りで父が脱獄に成功したらしいことを効くと、私にも生きる希望が見えてきた。  ――どんなことをしてでも、賄賂を稼いで、この地獄から抜け出してやる……!  私は、その一心に耐え難きことにも耐え、所員の中にも人脈を作って多額の賄賂を支払い、何とか強制収容所から出ることのできる、唯一の列車に乗り込むことができたのだ。  ――あともう少し、あともう少しで、私は自由だ……。  私は車窓から、ビルの林立する半島を眺めていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加