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 私は、相変わらず、海ばかり見える車窓を眺めている。  焦ってはいけない。ここでヘマをすれば、恐らく殺されるに違いない。今までの苦労も水の泡だ。 「ん、あぁ~……」  老人が欠伸をかみ殺すような動作をした。  ふと、その横顔に父の面影を思い出した。工場労働者であった父。逞しい腕に抱えて遊んでもらったことが、何度もあった。大柄でエラの張った顔で……。  そっと、老人の横顔をのぞき見る。確かに、父と面影が似ていた。  勿論、この老人は父ではない。第一、年齢が違いすぎる。だが、父がそのまま老衰すれば……あるいは、この人のような感じになるのではないだろうか。  そう思えるほどに、体格のしっかりした老人であった。  ――やはり、秘密警察の人間なのか……?  私は、目の端で老人を見やる。  呑気そうで、優しそうな老人。  私にはその様にしか判断が付かなかった。  ――とにかく、ここは何とかやり過ごそう……。  私は軽く息を吐くと、椅子に浅く腰をかけ直した。
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