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「…………ん?」  何か、音が聞こえる。空を切るようなモーター音が。  私は、悪い予感がして、とっさに窓から顔を出して外を見た。 「……ちっ……」  その予感は的中した。後方から、小型のヘリコプターがこの列車めがけて飛んできていた。  そのヘリコプターの側面には、秘密警察の文様が、でかでかとプリントされている。 『三人、四人……』  目視できるだけで、最低五人は乗っている。皆、秘密警察のコートを羽織っている。 「……なにやら、騒々しいですな……」  老人がふと目を上げ、私に話しかけてくる。 「ヘリが近くを飛んでいるみたいですよ。秘密警察の」  敢えて『秘密警察』の言葉を老人にぶつけてみた。  だが、その言葉を聞いて、老人は一向に反応した様子を見せず、杖を手に取ると、軽く座り直しただけだった。  ――もしかして、本当に脱走者……?  私には判断が付かない。  この呑気そうな老人からは、殺気のいうものが感じられない。秘密警察独特の、権威を振りかざすような雰囲気も全くない。  ――この老人への詮索は止めよう。今、私を守るものは、私自身のみ……。  私は、じわりと汗で滲む手に握られた拳銃のグリップを、再度、握り直した。  いつでも抜けるように。いつでも撃てるように。
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