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 がたんごとん、がたんごとん……。  規則正しい揺れば、私の身体を揺さぶる。  私は、列車に乗っていた。がらんとした車内。人影はない。  手すりなどは付いていない。付いているのは、両側に観音開きの戸が三対と、向かい合わせの椅子が十数脚。そして、時々軋む音を上げる窓枠だけだった。 「古い列車……でも、今日でここともお別れね……」  私は、窓枠に頬杖をつくと、車窓を眺めた。  眼下には、一面の海が広がっていた。水平線の丸みまで見える、大きな海。そして、視界の両端には、小さな島が一対、微かに見えていた。 「――ちっ……!」  私は、進行方向とは逆の島に目線を送ると、軽く舌打ちをした。  灰色の壁が島を覆う、まるでそこは要塞のような島であった。  私は、思想犯として要塞のような島――強制収容所に収容されていた。  何気ない日常。父と娘、ふたりだけの慎ましやかな生活。それは、秘密警察のブーツが奏でる乱暴な音によって、一瞬にして壊された。  私と父は、政府の転覆を狙うレジスタンスとして逮捕されたのだ。後に聞いた話では、報奨金ほしさに向かいのアパートの連中が、当局に通報したらしい。  父は、温厚な普通の工場作業員だった。定時に出社して、定時に退社してくる。夕飯はいつもふたりだった。  ――父が思想犯だなんて、ありえない……。  私はそう確信していた。釈放されるのも時間の問題だと思っていた。  だが、現実は違った。何十日と続く拷問、同じ事ばかりを問われる毎日。 『おまえは今の政府を悪いと思っているだろう?』 『おまえは今の政府を悪いと思っているだろう?』 『おまえは今の政府を悪いと思っているだろう?』 『おまえの仲間はどこに潜伏している?』 『おまえの仲間はどこに潜伏している?』 『おまえの仲間はどこに潜伏している?』  ……………………。  殴られ、蹴られ、打ち付けられ……精神的にも肉体的にも極限まで追い詰められ、私はありもしないことを自白してしまった。  そして、孤島を要塞化したかのような、この強制収容所に送られたのだ。
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