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「うぉーい!誰もおらんの?」
玄関から最も離れた場所である鏡子の部屋まで聞こえてくる女性の大声。
「おるんなら、出て来てくんない?」
「ちょっと、あなた!うるさいわよ!近所迷惑でしょうが!」
うわぁ、ヤバい。
隣のおばちゃんが出てきたようだ。
同じくらいに声を張り上げて言い合っている。
このままじゃ、大事になってしまうと焦った鏡子は階段を駆け降りて玄関の戸を開けた。
「す、すみません。トイレに入っていまして、なかなか出ることが出来ませんでした…………」
すぐに来なかった理由を適当に付けて謝る。
「何よぉ!居るんなら早く対応してもらわないとね。こんな喧しいのはもうごめんだからね。」
「はい、すみませんでした。」
ブツブツ言いながら、自分の家の方に戻っていくその背中に頭を下げる。
鏡子は大きく溜め息を吐いた。
「おい、あんた!」
鏡子は存在をすっかり忘れていた客から声をかけられて、ビクリと身を震わせた。
「はい、何の用ですか?」
チラリと相手を見る。
金髪の女の人…………もしかして、コンビニの店員か?
そう思った途端、身体が勝手に逃げ出した。
家の中に入って、勢いよく戸を引っ張る。
「待て!」
戸が閉められない!
何かが挟まっている!
「いやぁぁぁ!」
鏡子はパニックになって、悲鳴を上げてしゃがみこんだ。
「おい、どうしたんだよ!大丈夫か?おい!」
「来ないで、ごめんなさい、ごめんなさい!」
鏡子は踞って耳を押さえて、周りの全てを遮断しようともがく。
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