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「いえ?怒ってないですよ。逆にホッとしてます。あんな怪しい行動してた私がいけないんですから。」
鏡子が笑って見せると、彼女も笑顔を見せた。
「私、綾ってんだ。あんたは?」
「え?私は…………鏡子です。」
綾さんが勢いよく差し出した手を、鏡子はそっと握った。
────
それから、綾は毎日のように鏡子のもとを訪ねてくるようになった。
「何の用ですか?」
鏡子が何度訊ねても、綾の返事は「別に。」という一言だけ。
鏡子は、警戒して距離を置いて接するのに、綾がぐいぐい来る。
そして、鏡子の両親ともいつの間にか仲良くなっていた。
「ねぇ、腹へった。一緒に飯食いに行かないか?」
いつものように、うちにやって来て玄関での会話の中でいきなりそう誘われた。
「え?」
綾さんと喋るために玄関に毎日出てくるだけでもすごい進歩した鏡子。
というか、両親からは家に上がってもらいなさいと言われているのだが、綾さんは外でお喋りがしたいと言って譲らない。
「ファミレスか何か行こう。」
「…………行かない。お腹空いてないし。綾さん一人で行ってきてくれる?」
「んじゃ、コンビニでいろいろ買ってくるからここで食おう。それだったら大丈夫だな。」
綾さんは一人で決めて行ってしまった。
…………一人で行ってきてくれたら良いのに…………
鏡子は心の中で呟く。
もやもやする気持ちがあるのに、私を置いてファミレスに行こうとはしなかった綾さんに今まで感じたことのない複雑な気持ちを味わった。
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