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「アスレイ様、これで三人です。もう、その起爆装置は必要ありませんよね?」
アスレイが手に持つ起爆装置を握り締め、立ち尽くしている。
何か迷っているかのようだった。
「見ろ!」
グレンラカンが真っ先にその状況を目にして叫ぶように言った。
唐紙のような薄い鎧が大きく割れている。
まだ形が整っていない中途半端に歪んだ翅を背負った薄紅の身体には、真黒な縞模様がリボンのように刻まれていた。
アスレイの予想した通り、それは普通のナミアゲハではなかった。
次第に広がっていく翅は、薔薇の花びらのように肉厚に見える。
だが、それは血のように毒々しい深紅色の鱗粉のせいだった。
セクトチャールが一歩中へ入り、机の前に立った。
蒼とグレンラカンもあとに続く。
「どうしますか?」
セクトチャールの問いに、グレンラカンが目を閉じて首を振った。
どうすべきなのかはわかってはいるが、迷っている――蒼は、すぐにわかった。
「この首飾り、わたしがつけますね」
蒼がスレイドルチャーチルの首飾りをつけ終えた途端、蝶がふわりと枯れかけた木から飛び立った。
天井付近を旋回するかのように優雅に舞う真紅色の蝶を目で追う。
まるで薔薇の花びらが宙で踊っているかのようだ。
けれども、それはあまりにも美しすぎた。
シバシバとする目を休める為に蒼は、視界を植木鉢へと戻した。
「見て! これ!」
そこにあったのは、石灰のような白い粉が小さな山を築いていた。
枯れかけた木の姿はない。
「どういうことだ」
背後からアスレイが顔を覗かせる。
「わかりません」
「セクトチャール、オーレリアンはどのような死に方だった」
アスレイの問いが聞こえていないのか、セクトチャールの顔は青ざめ、固まっている。
「髪が……真っ白になって……まるで……老人のようでした。最後は心臓発作で死にました」
「遺体はどうしたんだ」
グレンラカンが訊ねる。
セクトチャールは、フワフワと天井付近を舞い続けている蝶を目で追いながら、声を震わせた。
「わかりません……気がつけば、目の前にあったのは人型に残った白い粉でした」
蒼はバクバクと激しく鼓動を打っている己の心臓をなだめる為に深い呼吸を繰り返した。
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