150人が本棚に入れています
本棚に追加
「アスレイ様――」
厳かな手つきで白いハンカチを広げてスレイドルチャーチルの首飾りをアスレイへと差し出した。
「オーレリアンは?」
「はい。やはり、ダメでした」
「死んだのか」
「最後まで正気に戻ることはありませんでした」
アスレイが手に掴んだ首飾りに視線を注いでいる。
蒼には、何か思い詰めているかのようにしか見えない。
「陛下」
慰めの言葉など必要ないことは、わかっていはいたが、それでも声をかけずにはいられなかった。
「グーラ――わたしとの約束を覚えているか?」
アスレイがグレンラカンに強く厳しさのある目で視線を送る。
「あぁ、だが――いったい、それがどうしたというんだ? お前は健在している。俺が王になることなど――」
グレンラカンに向かってアスレイがスマホとは逆の手に持っている黒い小さな箱を見せた。
中央には赤いボタンが付いている。
「なんだ? それは」
グレンラカンの問いには答えずに、アスレイが蒼へと視線を投げかける。
「王はね、嘘を吐くのも仕事なんだよ。キミを屋敷に置いてこなかった理由はね、もしもの時――そう、セクトチャールがオーレリアンを連れてこれなかった場合、最悪の事態を想定して屋敷を爆破させるつもりだったからだ」
「アスレイ!」
グレンラカンが怒鳴るように叫ぶ。
「ここで何が起きたのかは、友好国といえども知られるわけにはいかない」
「アスレイ様、でも――」
蒼は無表情のまま淡々とした口調で話すアスレイが恐ろしくてたまらなかった。
手足が恐怖で震える。
それを見ていたグレンラカンが蒼を引き寄せると抱き締める。
最初のコメントを投稿しよう!