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「大丈夫か?」
グレンラカンが蒼の背中をさする。
蒼は、何度も頷き首飾りのひと際大きな石の滑らかな面を指の腹で撫でた。
「悪魔の薔薇は、わたしに愛を囁いた時、ひとつになれば二度と目覚めることはない――と言っていました」
「それは、つまり肉体の死という意味だったんだろう」
アスレイが旋回する蝶を睨む。
「揚羽の幼体だから柑橘類の木に変わったというのなら、このスレイドチャーチルならどうなるのでしょうか」
蒼は首から下げていた首飾りを外して宙に高々と掲げた。
これは、ただの石だ。
そこに考えや感情は存在していない。
深紅色の蝶が高度を下げ、大きく回りながら徐々に近づいてくる。
おいで――。
そう、ここに――。
これは、あなたのもの。
もう、だれもあなたの眠りを妨げないから――。
それは、まるで真っ赤な花びらが宙を漂っているかのようだった。
翅が大きく揺れるごとに赤だけでなく透明に近い銀色の鱗粉が飛び散る。
グレンラカンが何かを叫んだような気がしたが、もう、そんなことはどうでもよくなっていた。
激しく燃え盛る炎に吸い込まれるかのように、深い赤色の生命体がとまる。
首飾りの一部であるかのように、広げた翅を閉じた蝶が動かなくなる。
だが、その色は徐々に引いていき、失われた箇所は白くなっていった。
蒼は首飾りを掴んでいたその手をゆっくりと下げた。
真っ白になった蝶の片方の翅が崩れていく。
「蒼!」
アスレイが首飾りをひったくった。
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