Episode1 契約の蜜事

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「女はすぐに嘘を吐く。こんなに濡らしておいて、イヤなどと――」  しなやかさを内包するベルベットのような女花の入り口を指の腹で押し開かれる違和感に、蒼は眉を寄せた。  痛みを前提とした恐怖が押し寄せてくる。 「恐れるな、今ここでしようとは思わない」  蒼の首筋に唇が落とされた。  皮膚下の血管を掘り起こしたいのか、尖らせた舌を筋に合わせて動かしている。  せめてここが人目のない寝室であったなら――。  たわわと実る胸の膨らみがゾワッと泡立つ。  目の際から堰を切ったかのように透明な滴が零れ落ちた。 「あの薔薇を咲かせる為に必要なことですか?」  グレンラカンという男が何者なのか詳細は不明だ。  何も知らないまま抱かれたくはなかった。  数年前に来訪した外国人で植物研究所の責任者かつ、それを商品化する会社の社長らしいが、セクトチャールという名の側用人の話しでは、どうもそれだけではないようだ。  国の名を明確に訊ねたわけではないが、質問されないよう会話もそのように誘導されてしまうし、あまりにも謎が多すぎた。 「この温室へはだれも来ない。隣の研究室には、今一人だけいるが――ここで何をしているかなんぞ興味ないだろう」  興味があるかどうかではない!  怒り心頭の蒼だったが、その一人というのがオーレリアンという西洋のどこかの国と日本のハーフで意地の悪い風貌全面押し出しの男だということは、察しがついていた。  オーレリアンは、ここに来た当日に研究所と温室の境にあるドアの前で鉢合わせしていたが、嫌味しか言わない男だった。  蒼を見るなり、グレンラカンの娼婦と認定したのである。  まさに、この状況がそうだ。  オーレリアンは、ここで何をされているか知っているに違いない。 「他の男のことなんぞ考えていたら、承知しないぞ」  ドスの利いた声に蒼の表情筋が固まる。  頬を濡らしていた涙は、すでに乾いていた。  もう泣き落としは通用しない。  蒼は覚悟を決めるしかなかった。
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