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布団に入ったままいつの間にか寝てしまっていた。
少し重い体を起こしてリビングへ向かう。テーブルの上には、昨日から変わることのない『離婚届』と『指輪』があった。
僕は、着替えをすませ妻が買って置いてくれたパンを食べる。
そして、出かける時に必ず持っていくカメラを首からかけて家を出た。
電車に乗って、アルバムの最後にあったショッピングモールに向かった。ショッピングモールの前で写真を撮る。
次は、水族館。遊園地。動物園。
どの場所でも、写真を撮る。
僕も妻もいない写真。
写真を撮りながら、僕は思い出していた。
いつもの僕のことを。
仕事からかえって口にするのは、その日の仕事の話だった。
『今日は、人がいなくてさ…。』
『…いてて、荷物の運び出しがあったから腰が痛くて。』
『…あと一日で休みだ、やっとゆっくりできるよ。』
僕の言葉に妻は
『そんなんだ、大変だね。』
決まり文句のように言った。
何にも気にしてなかった。妻がどんな気持ちで僕の話を聞いていたのかとか…僕は、これっぽっちも考えてなかった。
そして、いつの間にか妻は『何処かに行きたい』と言わなくなっていた。
夫婦になっても変わらないと思っていた。
付き合っていた頃のようにたくさんデートをして、たくさん思い出を作るんだと思っていた。
変わったのは、僕の方だった。
【大丈夫』だと、変な自信がいつの間にか生まれていた。
もう一度、僕はあって話をしないと。
妻に連絡をする前に、近くにあったアクセサリー屋に寄った。
「いらっしゃいませ、プレゼンですか?」
「結婚指輪ってありますか?」
「はい、ございますよ。」
「今日中に渡したいんです、すぐに買えるのはどれですか?」
僕は、妻のサイズと自分のサイズを伝えすぐに買えるものの中から妻が好きそうなデザインを選んだ。
そして、アクセサリー屋の前で妻に電話を掛ける。呼び出し音だけが響き、妻は出なかった。
留守番電話のメッセージが流れる。
「僕だけど…
家の近くのコンビニの前でまってるから。」
それだけを言って電話を切った。
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