赤い糸

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 さほど大きくない会社だったが、初めて社会人になった美智子にとって毎日は輝いていた。  初日すべての部署にあいさつまわりをした。  研修も終わりある日、となりの部署に書類をもっていく用事を頼まれた。  届けさきの社員の横の席で真剣にパソコンに向かっている男がいた。  無意識にじっと見つめる美智子に「ああ、片岡はこのまえ出張でいなかったから」と、同僚に肩を叩かれた片岡という男は美智子をちらりと見て、軽い会釈をした。   「こいつ、こんなふうに見えて入社する前は海外青年協力隊に入ってアフリカに行ってたんですよ」  と、肩をポンと叩かれた片岡という男は恥ずかしそうにはにかんだ。  二人の間でこのとき交わした言葉はなかった。  片岡は美智子を見たあと、いちだんと恥ずかしそうに笑って頭をかいた。  その右手の小指には赤い糸が伸びていた。
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