278人が本棚に入れています
本棚に追加
御田は結婚と同時に都内に分譲マンションを購入したはずだった。一度招かれたが広くて夜景が綺麗だった。あの広い家は一人で住むには空しくて手放したのだろうか。夜景に酔いながら愛の巣になるはずの家だった、ゆくゆくは子どもだって、と。それは結局全て夢となって消えた。早々に子どもでもいたら二人は別れずにすんだかもしれない。
他人の恋愛事情は想像することすら難しい。そこに流れる感情すらわからないから、俺は未だに寄り添う相手を見つけられないでいるのだろうか。きっと俺はこのまま誰にも目を止められずに一人老いて行くのだろう、このくらいの自己分析は出来ている。
テーブルの下から御田は俺に触れる、男でも色気を感じさせるその長いまつ毛と大きな瞳。俺を誘っているつもりか?
「今夜、お前の家で飲みなおしたい」
「今日は遠慮しておくよ」
「こんな夜におれを一人で置き去りにするつもりか?」
「酔っぱらいの相手をする気分じゃないんだよ、失礼」
俺を追う、甘えた声を出す御田に強引に別れを告げて支払いを済ませ店を出た。都会の空は星なんて見えない。未だ騒がしい駅前に向かい終電で帰宅することにした、その時だ。
この時期にしては薄着で呆然と立ちすくんでいる二人の少年を見つけてしまった。高校生くらいに見える。無造作に伸ばされた髪、綺麗な顔の造りはどこか似ている、兄弟だろうか。でも何故この騒がしい街のこんな時間に。ふとかつての自分が頭をよぎる。
どこにも行く場所がない、と。
もしかして……家出か?
最初のコメントを投稿しよう!